数式の美術館

Masaki Kato

幸せのスナップショット

2022

概要

  • どんな出来事があったのかという事実ではなく、「その時何を感じたか?」という感情を数式(幸せの方程式)を用いて可視化し、記録することを試みた
  • その時の幸せ、感情が揺れ動いた瞬間を客観的に捉えるアイテムの生成を試みた

日時・会場

📌 2022年7月1日(金)〜7月10日(日)10:00-20:00100BANCH 2階 GARAGE 最寄り駅:JR渋谷駅新南口から徒歩約2分
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-27-1
※入場無料、予約不要

実施の流れ

  • 体験者の中にある嬉しい気持ち・幸せな気持ち、その出来事を思い浮かべてもらう
  • 体験者にとってどれほど嬉しい出来事なのかを10段階で評価してもらう
  • 嬉しい・幸せな気持ちになった出来事をマイクに向かって、喋ってもらう
  • その場でアート生成される
体験された方のアーカイブの一部
「幸せのスナップショット」の体験の様子

「幸せの方程式」のメカニズム

  • 人間の心理学的な感情変化である「幸せ」を、数理モデルを用いながらアート的に表現することを試みた。
  • 「幸せの方程式」は以下のように考案した。数理モデルを支配するパラメータを決定するために、参加者に対して、幸せの変化量に関する質問を実施。そこから数理モデルを解くことで、連続的な感情変化を導いた。数理モデルはBothらの数理心理モデル(参考文献1)を発展させ、連続的に微分方程式を解いた。
幸せの方程式
  • Oがobjective emotional value of situation, Sがsubjective emotional value of situation, Mがmood level, Tがthoughts, \sigmaがsensitivity, STがshort term prospected mood level, LTがlong term prospected mood levelを示す。
  • 参考文献1 Both, F., Hoogendoorn, M., Klein, M., & Treur J. (2008). Modeling the Dynamics of Mood and Depression.

幸せの可視化

本プロトタイピングでは、以下のメカニズムを設計した。

幸せの可視化の概念図
  • 幸せとは「感情変化の微分量(変化量)」であると考えている。
  • 私たちは、ネガティブな感情からポジティブな感情を引き起こす出来事が起こった時に「幸せ」を実感する時がある。他方で、ポジティブな感情を抱いているにも関わらず、少しでも嫌なことが起きると「幸せではないかも…」と落ち込んでしまう時も存在する。
  • 数式を用いて感情や幸せを表現することを模索するなかで、感情の連続性に気づいた。私たちは時を刻む度に感情が変化し、その感情を積み重ねてく。そこで「感情」は連続的に変化する「流体」であると仮定した。
  • 本作品では感情の流れを、流体シミュレーションすることで、ジェネラティブアートとして描いた。
流体力学の数式

色を決める

  • フーリエ変換を用いて体験者の声の特徴を周波数ごとの情報(声紋)として分析し、その人だけの色に変換した。
  • 人はそれぞれの独自の周波数の組み合わせで発声しており、全ての音はsin, cosの単純な波の組み合わせによって表現される。本プロトタイピングは、人が発した音声の周波数の強度を重みづけして平均を取り、その値をHSBカラーモデル*2に当てはめた。
    • 2:マンセルによる心理学的観点から、色を色相 (Hue)、彩度 (Saturation)、明度 (BrightnessまたはValue)の3つの属性で色を定義したもの
フーリエ変換の数式

流体の軌跡を決める

  • 体験者が回答した幸せの変化量(10段階)と、流体を構成する粒子の速度を対応づけた。
  • 声紋から取得した声量データと、回答いただいた日時情報を元に、流体の軌跡を表現した。流体の軌跡はパラメトリック方程式を解くことで決定している。

メンバー

加藤雅貴

  • 研究者 /メディアアーティスト ダ・ヴィンチに代表されるルネサンス期のように、芸術と科学の垣根がない社会を作りたいと考え、某国立大学で物理学の研究を行いながら、数式を用いたメディアアート作品を制作している。
  • 100BANCHにて、プロジェクト「Physics As Art」を実施。
    • Physics As Artとは:数式xアート作品を通して、理系・文系、科学・芸術などの壁を打ち壊していく。科学も芸術も等しく楽しむ社会の創造を目指す

Natsuyo Mikawa

  • 研究者の頭のなかを覗かせてもらうのが大好き。未知の世界が大好物で実験しながら生きている。いま興味のあるテーマは「幸せの価値交換」「関係性を発酵させる」「終わりのデザイン」「弱さの持つ力」。